九谷浦島図盃

2020年08月08日

長い梅雨がようやく明け、夏らしい雰囲気になってきたと思っていたら、昨日は立秋でしたね。

お店の窓に簾を掛けたのがついこの前のような気がしますが、何だか慌ただしく季節が変わっていきます。

さて、本日の「骨董のはなし」は九谷の盃をご紹介いたします。

九谷浦島図盃(大正時代)

幅 6.0㎝

高さ 2.2㎝

千鳥の形をした器の見込に金彩の花唐草と青粒、花菱、波に桜の3種類の図柄が描かれ、扇形に抜かれた部分に浦島太郎がいます。

高台には「九谷造」の銘、底面から側面にかけては波に千鳥が描かれています。

浦島太郎の話は、元を辿れば『日本書紀』や『万葉集』などの上代の頃から存在したようですが、「浦島太郎」として知られる話の形になったのは室町時代に成立した『御伽草子』に拠るようです。

『御伽草子』では、浦島太郎が漁で釣り上げた亀を逃します。

後に小舟で漂流してきた美しい女を故郷の島まで送ったところ、実はその女が助けた亀の化身で…というお話の流れで、最終的には女から形見に貰った箱を開けた浦島は鶴となり、蓬莱山で亀と夫婦明神となります。

この時点では、われわれが知る話の内容と少し異なり、明治時代に教科書へ載せる際に現在よく知られるような内容になったそうです。

お品に戻りますと、こちらの浦島は釣竿を右手に持ち、左手に箱を抱え、座った状態で目線の先には小さな蓑亀がいます。

浦島太郎のお話の一場面というよりは、扇面の中でモチーフを集めて浦島太郎を表しているということでしょう。

大正頃のお品ですから、浦島太郎が亀に乗って海中の竜宮城に行く話が一般的だったはずですが、蓑亀は可愛いらしい大きさです。

描き手が御伽草子を読んでいたのか、それとも亀が大きくなって帰ってくる設定なのか気になります。

それにしても小さな画面の中でよく描きこまれています。

浦島太郎の着物の細かな文様や、釉薬の濃淡を使った遠景の表現、白の逆三角だけで帆船だと伝わる点には、画力の高さが伺えます。

器の形が先か、絵柄が先かは分かりませんが、形と絵付けの取り合わせにも遊び心が感じられます。

ここにお酒を注ぐというのも面白いですが、眺めているだけでも楽しい盃ですね。