琉球漆器箔絵菓子盆
2019年05月18日
日に日に暑くなってまいりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。
石黒商店の店舗は建物の造りのおかげか、いまだに店の中にいると肌寒く外に出ると暑さに毎回驚きます。
急に暑くなってきたので体調を崩さぬようお気をつけくださいませ。
さて、本日は研究心をくすぐる琉球漆器の菓子器をご紹介いたします。
琉球漆器箔絵菓子盆 5客 (18~19世紀)
縦幅 11.3cm
横幅 10.2cm
高さ 3.4cm
(5客それぞれの寸法にばらつきあり)
琉球漆器とは、その名の通り沖縄で作られた漆芸品のことです。
沖縄は湿度が高く年間平均気温も高いため漆が渇く(硬化する)のに適している場所だといえます。
沖縄独特の技法としては新鮮な豚の血が凝固する性質を利用した「豚血下地」や朱の顔料を他の産地よりも2割多く入れるため鮮やかな朱色も特徴の一つです。
漆芸の技法の伝わり方の違いや風土の違いもあり、唐物風のものが多く作られました。
本作も異国風な雰囲気を漂わせています。
(琉球漆器の歴史については那覇市伝統工芸館HPに詳しく載っておりますのでこちらをご覧ください)
くぼませた見込は朱色で塗られ、箔絵で急須や如意、茶入などの煎茶道具が描かれています。
煎茶道のお道具は小さくて可愛らしいものが多く、夢中になる方も多いですね。
箔絵とは漆で文様を描き、半乾きになったところで金箔を貼る技法です。
本作は箔絵の上に何かの半透明な塗料でなぞられて少し肉上げされています。
箔の色が違うのか、または塗料の色が違うのか判別はつきませんが二色で表されているため絵に立体感が出ています。
縁は緩く広がりを見せ金粉を散らし、その上から潤塗(透けた赤茶色)で落ち着いた印象に仕上がっています。
少し高めの高台は内側に下地として和紙が貼ってあるのがうっすらと見え、塗りは茶色とも紫色ともつかぬ黒い色をしています。
上から漆がかぶり見えにくいのですがうっすらと数字が書かれているのがお分かりでしょうか。
高台には「一」・「三」の数字が書いてあることから「二」の数字の書かれたものも存在するのではと想像が膨らみます。
また、5客中「一」が1客、「三」が4客と数がバラバラなため、元々は数が多く揃いになっていたものを時代が下ってから分けられたのではとも考えられますね。
同じ図柄のものでも寸法が違うことや木地の厚みや縁の厚みが一辺ずつ微妙に違うことから、いくつかのパーツを組み合わせて素地を作ったのではなく一つの材から削り出して作られたように見えます。
しかし、琉球漆器の素地の特徴として下地と布着せで厚く仕上げるため、素地が透けて見えずどのような造りなのか実際はわかりません。(X線でみたらどのように写るのか答えを知りたいような、知りたくないような)
実際は高台だけ別に作り付けたのか、寄木造りのように細かいパーツを組み合わせて作られたのか、それとも削り出して作られたのか、考えるだけで楽しい時間になりますね。
荒川浩和・徳川義宣/著『琉球漆工芸』より
図録を調べると同手の作品が載っていました。
本作の図柄は2種類ですが図録の写真では図柄が3種類あります。
この図録に載っている本作にはない図柄の高台には「二」の数字が書かれているのでしょうか。
伝わってきた歴史の違いや風土の違いはもちろんのこと、お品それぞれの物語を想像しながら日々の彩りに加えてみてはいかがでしょうか。