龍形錠
2020年03月21日
昨日は春分の日でしたね。
東京ではもう桜が咲いているとのこと、日本海側に住んでいるとその早さに毎年驚かされます。
金沢も少しずつですが暖かくなってきて、春が近付いてきているのが分かります。
さて本日は、久しぶりに器ではないお品をご紹介いたします。
龍形錠
幅 6.0㎝
高さ2.2㎝
厚さ1.0㎝
その名の通り、龍の形をした真鍮製の錠となります。
ツルの両端には竜の頭、胴の表には鱗が彫られており、凝っています。
付属の鍵を差し込むことで、ちゃんと開けることができます。
胴の内部で薄い金属板が扇状に広がり、返しのような状態になっているのを、鍵先のコの字部分で挟んで閉じることで横にスライドできるようになり、開錠できる仕組となっています。
言葉で説明すると分かりづらいですが、このような錠のことを海老錠と呼びます。
海老錠とは、その姿が海老に似ていることから名付けられたもので、南京錠の一種です。
古い錠で同じ構造のものはアジアで広く見られるそうで、中央アジアで冶金術が始まったことに由来すると考えられています。
その中でも中国のものは鉄・鋼の他に、本品のように真鍮を素材とするものが多く、縁起的なものをモチーフとした精緻な装飾が施されているのが特徴となっています。
朝鮮 双竜錠 長さ6.0㎝ 安藤秀幸『世界の鍵と錠』平成13年 より
中国での錠の普及は唐の時代、7世紀前後とされています。
一方の日本では、文化的な違いなどから普及が進んだのは江戸時代からだそうです。
素材は真鍮製のものもありますが鉄が主流で、あくまで錠という機能を重視して作られている印象です。
本品に戻ってみますと、100年ほど前のものでしょうか制作年ははっきりしませんが、その姿や素材から中国・朝鮮製の古い錠の典型であることが分かります。
錠は用途が限られており器のように何かに見立てるというのは難しいですが、普段私たちがドア等で当たり前のように使っている製品的な錠にも、このように手仕事が活きた時代があったと思うと面白いですね。