第三回茶話茶話会レポート「蒔絵の見どころ」
2015年06月27日
第3回 茶話茶話会 6月20日(土) 11時~、15時~
「蒔絵の見どころ」 講師 三代西村松逸氏
●講師紹介
西村家は蒔絵を始めておよそ100年になるそうです。
西村さんは、初代西村松逸(祖父)、二代松逸(父)に漆芸を習い、人間国宝大場松魚先生に師事。現在は金沢漆芸会の会長として作家活動とともに金沢漆器を広める活動をしていらっしゃいます。
(金沢漆芸会HPhttp://www.kanazawa-shitsugeikai.com/index.html)
今回は画像やレジュメを用意していただき、西村さんにご持参頂いた作品と当店のものを見ながら技法の説明やお話を進めていただきました。
項目を分けて簡単にお話の内容をまとめてみます。
●漆について
漆が採れるウルシノキについてのお話や、国産漆の最大の生産量を誇る岩手県浄法寺での漆に関する体験談などをお話してくださいました。
漆は乾く場所を選び、温度や湿度など一定の条件を満たさないと乾きません。純度の高いものを使えば扱いはさらに難しくなります。しかし一度硬化したら塩酸をかけても溶けないほどの強度をもつのが漆の特徴のひとつでもあります。
蜂の巣の構造には漆が使われているという話も昔からあり、漆の強度は人間だけでなく虫などもよく知っていたことが伺えます。
日本人と漆の関わりは古くからあり、世界最古(約9000年前)の漆の装飾品が函館の垣ノ島B遺跡で見つかっています。見つかったのは櫛などで、櫛というと髪飾りのイメージが強いですが、髪は神に近いものとされ櫛には特別な意味があったようです。朱漆(赤は生命や再生の色)が塗られていたことで漆に呪術的な要素があったのではないか考えられています。
また、約12600年前のウルシノキの枝が若狭の鳥浜貝塚で見つかり、ウルシノキは中国原産でなく日本の固有種の可能性がでてきたそうです。
漆の考古学というものも興味深いですね。
●蒔絵のはなし
蒔絵は奈良時代より日本で高度に発達した漆芸の代表的な加飾技法です。漆で絵や文様、文字などを描き、まだ乾かないうちに金や銀などの金属粉を「蒔き」、漆が乾くことで固着させます。平文や螺鈿を併用する場合もあります。
「蒔絵」という名称は「竹取物語」に出ているのが最古といわれ、語源は『国家珍宝帳』に<末金鏤(まっきんる)>の記載があります。この音が「末金絵」になったとする説や,金銀粉を蒔き付ける技法からきたとする説があります。
●技法について
蒔絵の技法についてもお話いただきました。
実際にそれらの技法の使われているお品を見ながら、説明もしていただきました。
説明していただいた技法の一部をご紹介いたします。
「描き割り」・・・
加賀蒔絵に多い技法。線状に漆を塗り残して金粉を蒔き、金の付かない部分を黒い細線として表現する。線状に塗り残すことを「描き割る」といい、この技法を「描き割り」と呼ぶ。
「肉合(ししあい)研出蒔絵」・・・
蒔絵の中でもっとも豪華で複雑な工程を経て完成する。「肉合」とは高蒔絵の文様の一部分を浮彫状に盛り上げ高低差を表し蒔絵をしたもの。仕上がりは平面からの浮彫部分が境目なくなだらかに続く部分と、一方で、その反対の箇所では平面から直ぐに高蒔絵の表現となり、両者が連続した形で同居している。
肉合研出風に作られている作品はあるものの実際に「肉合研出」の技法が使われている作品はめったにない。
また、金沢の蒔絵は特徴として荒い金粉を使用し、金をふんだんに使っている分、技術的にも難しく手間も大変にかかるそうです。それぞれの地域による特色や技法が生まれた時代背景など、物語を聞いているかのように引き込まれるお話でした。
●伝統とは
お話は蒔絵だけでなく、伝統とは何か?というところにも及びました。例えば菊は文様としてはギリシャから、日本では平安時代から描かれており、ここから日本人は約1300年も菊を描いていることになります。昔のものでも、今の人が「これいいな」と思うものも多く、このような共通の美意識を持つ国は世界中でも日本以外にはなかなかありません。同じ画題や技術で制作するだけではなく、同じ気持ちで美意識を人と共有できることが伝統なのではないか、など作品についてだけではなく精神性や価値観についても語っていただきました。このほかにも質疑応答、漆の小話やお手入れの仕方など和やかながら内容の盛りだくさんの会となりました。
西村さん、お忙しい中お越しくださり誠にありがとうございました。
茶話茶話会ご参加の皆様もお足元の悪い中お越しいただきありがとうございました。
次回の企画もお楽しみに!