冠蒔絵折敷

2016年04月09日

桜も散りはじめ、まもなく新緑のまぶしい季節がやってきますね。
さて、今回は見込みに描かれた冠と扇子、そして立ち上がりの朱色が上品な折敷(四角いお盆)のご紹介です。

冠蒔絵折敷 10客(明治)
縦横:25.0cm
高さ:3.0cm

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蒔絵には様々な技法がありますがこのお品は研出蒔絵(とぎだしまきえ)という技法が使われています。
研出蒔絵とは、蒔絵の基本技術の一種で中塗り漆の上に漆で文様を描き、金銀粉を蒔きつけ乾燥後文様を描いた器物の面全体に漆を塗り被せます。乾燥後に研ぎ炭で蒔絵層を平らに研ぎ表し磨き上げる技法です。研磨したあとの文様と地面はほぼ平らになります。

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鳳凰と瓔珞のついた冠をよくみると、形や大きさの違う金銀粉が蒔き分けられており手が込んでいますね。
冠の紐は自然と流れており、その上には扇子が開きかけたまま置かれています。
黒地の余白に意匠化された絵、この独特の空間のあけ方が上品に感じさせてくれる一因ではないでしょうか。

最初は端午の節句も近く、出世の象徴である冠のお品を…と思ったのですが、このお品の鳳凰がついた天冠と扇子は能の演目『羽衣』を元にしたものかではないかと思われます。
そのように見ると霞のような金の砂子が羽衣に見えてくる様な気もします。

ハレの日やおもてなしのときに自然と場を華やげてくれるそんなお品です。