伊万里貝形花紋染付向付
2021年09月03日
残暑が厳しく今年の夏は長いかと思われましたが9月に入った途端に秋を感じられる気候になりましたね。
今週は二十四節気の処暑の末候にあたり暑さが和らぎ穀物が実り始める季節になりました。
みなさまいかがお過ごしでしょうか。
コロナ禍で家にいる時間が増え身の回りのものを整えたくなった方も多いように思います。
店にお品を見にこられる方もプレゼントよりもご自身で使われる器を探されている方が増えたように実感いたします。
さて、本日はネットショップでも取扱中のかわいらしい向付をご紹介いたします。
伊万里貝形花紋染付向付(江戸末)
幅 14cm
高さ 3cm
花びらのようにも扇のようにも見える器形に花唐草と丸文が描かれています。
箱書きには「牡蠣貝」とあり、確かに要のようにも見える部分の絵付けを見れば貝形とわかるような気がします。
貝形といってもこの形はあまりみかけません。
型押しで成型され、凹凸に沿って文様が描かれています。
花は菊紋でしょうか呉須の色も淡く文様も相まって軽やかです。
絵付けですが、花紋の花弁や葉はプリントで真ん中の部分や丸文は手で描かれています。
プリント絵付けのことを俗に「印判手」と呼びますが少し調べてみますと、文様を切り抜いた型紙を器にあて絵具をふくんだ刷毛ですりこむ「型紙絵付」、銅版画により印刷した紙を器に貼り水に濡らし刷毛でなぞって転写する「銅版転写」、今では技法のわからないコンニャク印判、他にもスクリーン印刷やゴム判絵付など印刷の方法が数多くあるということがわかりました。
いわゆる印判手の青は印象的な鮮やかなものを思い浮かべる方も多いですがこちらのお品は呉須の落ち着いた色が美しく、ややくっきりとした高台にほんのりと青みがかった釉薬が溜まっています。
よく見ると文様部分と余白部分に刷毛目の跡のようなものが見えます。
型紙絵付の特徴として刷毛目跡が見えることが挙げられますが、余白部分にも跡がついていることや立ち上がり部分にも綺麗に印刷されていることからおそらく銅版転写されたものではないかと思われますがいかがでしょうか。
型紙絵付は着物の型染でも同様の方法でされていたこともあり江戸時代からあったもので、銅版転写は江戸後期にヨーロッパから伝わったもので明治期半ば頃から大量生産されるようになりました。
本作は江戸後期頃に作られたことを考えると時代からみれば型紙絵付と考えるのが妥当ですがこの刷毛目の入り方は塗料を含んだ刷毛というよりも転写するときの刷毛の流れに見えてきて仕方ありません。
向付としての使用はもちろん、少し深さもあるので水を張り花を入れるのもまた楽しみ方としてご提案できればと思います。
印刷と手描きの双方の線がひとつの器の中におさまっており、いつまでも眺めていたくなるそんなお品です。