絵替草花蒔絵螺鈿銘々盆

2021年10月22日

 

先週までは季節外れの暑さに驚いていましたが、今週あたりからぐっと冷え込み日が暮れるのが早くなりましたね。

晩秋を迎えあっという間に冬がやってくるのでしょう。

寒くなってくると華やかな蒔絵であったり素朴な塗りのものであったり漆のものを手に取ることが増えます。

先日の夕方、電気をつけずに座敷に入ったときに書院に飾られた蒔絵の文箱が夕暮れの薄暗い室内で格子の障子窓から透ける光でぼんやりと照らされて螺鈿の貝の色が美しく息を呑みました。

モノは自然光で見るのが一番と言いますが、時間帯で印象も変わってくるのだなと改めて実感した出来事でした。

さて、本日は薄灯で見るとなお美しくみえる蒔絵のお盆をご紹介いたします。

 

 

絵替草花蒔絵螺鈿銘々盆 六枚 (江戸期)

 

直径 21.0cm

高さ 2.0cm

 

 

黒い余白を生かした構図で、無駄を省き見せたい線だけで草花(椿・沢瀉・水仙・竹・燕子花)がそれぞれに描かれています。

花の部分に厚貝螺鈿、葉は鉛板と平蒔絵で表現され存在感を際立たせモチーフが目を惹きます。

大胆な構図や伸びやかな線、厚貝や鉛板を使用するあたりが琳派風な印象を受けますね。

こちらの銘々盆が作られたのは江戸時代と思われますが、この余白を生かすという感覚、今でも「かっこいい」と感じる方が多いのではないでしょうか。

 

 

こちらのお品、古い箱に入っており蓋には「河文」と墨で書かれています。

「河文」は名古屋で400年続いた老舗の料亭です。

どのように使われていたのでしょうか。伝来がわかると想像も膨らみ楽しくなりますね。

木地が痩せ木目が透けてみえ、長い歳月を経て今にあることを伺わせます。

箱には五人前と書かれていますが実際には六枚入っています。

九谷や伊万里の小皿なども十客揃いのものでも1〜2枚多く入っているものもあり、元から欠けることも考えて多めに入っているものも見かけます。

 

 

裏返すとちょこんとした足が三つ、付いています。

少し反っていますが三つ足のおかげでぐらつくことなく使用でき、机に置いた際に少し高さがあることでお盆をスッキリと見せてくれます。

表は深い黒で余白を生かした構図なのに対し、裏は金が蒔かれておりまた印象が違います。

 

 

季節ごとに飾って眺めて楽しんだり、お皿ように使ってみたり、もちろんお盆としても使用できるので楽しみ方に工夫ができそうなお品です。

夜が深けてから月明かりや暖色の照明など、色味や雰囲気を変えて眺めてみてはいかがでしょうか。