菊蒔絵硯箱
2014年08月30日
皆さん、菊の節句が近づいていることをご存知でしょうか。9月9日は重陽の節句、別名を菊の節句といいます。現在ではあまり馴染みがありませんが、菊の節句は本来、菊の露を含ませた真綿で体をぬぐって邪気を祓い、長寿を願って菊酒を飲み交わすのだそうです。
菊とお酒といえば、石川の地酒の「白山菊酒」というブランドが思い出されます。この白山菊酒というブランドは、仕込み水に霊峰白山から流れる手取川の伏流水が使われており、その水源には野生の菊がそこかしこに咲き、この地の水を菊水というのだそうです。洒落たグラスに菊の花びらを添えた菊酒なんていいですよね。
さて、少し遠回りしましたが今回は菊の節句にちなんで、菊の描かれた硯箱をご紹介いたします。
<骨董の話>
菊蒔絵硯箱 江戸時代中期
蓋:22.0cm×20.5cm(縦×横)/身:21.2cm×19.8cm(〃)/高:4.5cm(蓋を閉めた状態)
<蓋表>
<蓋裏>
<身>
今回はテレビでも紹介されました菊蒔絵の硯箱をご紹介いたします。
この硯箱は研出蒔絵ですっきりと描かれた蓋表の菊の花に対して、蓋裏と見込みには平目地に秋草を中心とした秋の情景がびっしりと細かく、そして豪華に描かれているお品です。
蓋裏には馬が居るのみで、人物は描かれていません。このような意匠を留守蒔絵と呼びますが、地面を気にする馬と,その周りの女郎花から僧正遍昭(816〜890)の秋の歌の一場面であることが考えられます*。このような豪華な硯箱を使うことが出来た方々は皆、この意匠を見ただけで僧正遍昭の歌を思い浮かべ、描かれてはいませんが女郎花の愛らしさに魅かれて手を延ばしたところ落馬してしまった遍昭にも思いを馳せたことでしょう。
*「名にめでて折れるばかりぞ女郎花われ落ちにきと人にかたるな」(『古今和歌集』)
僧正遍昭(816〜890)平安時代の僧、歌人。
この歌にはいくつか解釈がありますが、この場合は遍昭が愛らしい名前に誘われて女郎花を手折ろうとしたところ落馬し、その失態を誰にも言うなよと女郎花に声をかけているという解釈を意匠化していると考えられます。
<その他細部>